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最高裁判所第二小法廷 昭和24年(れ)425号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人池辺甚一郎の上告趣意第一點について。

記録を調べて見るに、所論書類はその編綴の個所から見て、原審第一回公判期日前に原裁判所へ提出されたことが伺はれるし、又原審公判廷では右書類について證據調をしなかったことは所論のとおりである。しかし右書類は本件訴訟關係人以外の者が作成したものであって(但し、被告人名義の上申書を除く)、その内容から見るも、何人が如何なる目的で提出したものか記録上全然判明しないばかりでなく、原審公判調書を見ると裁判長は證人訊問に先立ち、被告人に對して「利益となる證據があれば呈出することが出来る」旨を告げ更に證人訊問後重ねて他に提出する證據の有無を訊ねたところ、辯護人より證人森てるの訊問を申請した以外に、被告人も辯護人も「他に提出する證據はない」と述べており、よって裁判長が所論の書類について證據調を爲さずに「事実證據の取調を終了する」旨告げたのに對しても、本件訴訟關係人から何ら異議の申立をした形跡のないことがわかる(七二丁、七三丁)。して見れば、所論の各書類は本件訴訟關係人から證據物又は證據書類として證據調を求める趣旨の下に提出されたものとは到底認めることができない。從って原裁判所が右書類につき證據調をしなかったからというて、所論のような違法はない。論旨は理由がない。(その他の判決理由は省略する。)

よって刑訴施行法第二條、舊刑訴法第四四六條に則り主文のとおり判決する。

右は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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